中須賀真一教授×鈴木力英氏 対談

1957年に人類初の人工衛星・スプートニック1号が打ち上げられてから、はや半世紀。重さ数トン、開発費
数百億円、開発期間5年以上という大型衛星に対し、超小型衛星の技術開発が急速に進んでいる。
なぜ、今、超小型衛星なのだろうか。そして、超小型衛星は我々にどんな未来をもたらしてくれるだろうか。
そんな疑問を解決すべく、衛星の開発者と、利用者という立場の違うお二人に対談をお願いした。
中須賀真一先生は最先端研究開発支援プログラム「超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの
開発」の中心研究者であり、日本の超小型衛星開発の第一人者。重さ50キログラム以下、コスト約2億円、
開発期間18カ月の超小型衛星の開発を進めている。対する、鈴木力英先生は独立行政法人海洋研究
開発機構で地球規模の植生について衛星データを使い研究している。
司会は、夕陽評論家の油井昌由樹氏。白熱した1時間が始まった。


油井: まずは、超小型衛星の開発がどんな状況に来ているかお話いただけますか。
中須賀: 日本で小さな衛星の開発が始まったのは、2000年ぐらいからです。最初は、大学の教育目的から始まりましたが、小型ならではの特性を生かしていけば、社会の役に立つものができると、数年前ぐらいから実用に向けての開発がスタートしました。
東京大学では2003年、2005年と重量1sの世界最小衛星(CubeSat)の打ち上げ、運用に成功しました。もう8年経っていますが、まだ動いています。2009年には、少し実用的な衛星の世界に踏み込もうと、30m分解能を持ったリモートセンシング衛星「PRISM」を作りました。
2011年には星の正確な三次元の地図を作るための衛星「NANO-JASMINE」を完成させます。これは8等星までの約20万個の星の正確な三次元位置を計測します。この他にも2013年までに4機打ち上げることが決まっています。その1号機は50kgでありながら分解能5mの地球観測衛星です。
油井: 分解能5m! そんな精度の高い衛星なのに部品を秋葉原で調達していると聞きましたが、本当ですか?
中須賀: 最初の頃の1kgの衛星はほとんど秋葉原部品で作っていました。現在では、秋葉原的な部品も使いますが、多くは業者から購入する部品を使っています。しかし、「宇宙用のばか高い部品は使わない」というコンセプトは守り続けています。これまでの衛星運用の管制室は大学内パソコン一台。今までの常識とはかけ離れていますが、宇宙って特別じゃないんですよ。観測の場が宇宙だというだけで、単なる工学システムです。工学システムとみなせば、宇宙を特別視する必要はないんですよ。宇宙は「宇宙という環境」があるだけなので、それをしっかり解析して対応すればよい。これからは、そういう風に考えていかなければいけないと思いますね。
油井: パソコン1台ですか! 開発というのはどういう風に進めていくのですか?
中須賀: まずは、衛星の姿勢を制御するリアクションホイールをはじめ、衛星から写真を撮る機器、電源装置、通信機器、計算機など、衛星に必要な様々な機器の開発を行います。そういったものの集大成として衛星は完成します。その際に、「絶対に死なない」というシステムを工夫することもとても大事です。それと同時に、利用者ニーズの開拓ももう一つの柱。これまでの中・大型衛星だと高すぎてできなかったニーズを聞きながら、どんなミッションを持たせるか考えていきます。

油井: 今おっしゃったもう一つの柱の側でいらっしゃる利用者のお立場の鈴木さんは、衛星データをどんな風に利用されるのでしょうか?
鈴木: 地球の環境がどうなっているか知るのが私の研究の大きな目的で、そのために、シベリア、アラスカ、熱帯をはじめ、グローバルな植生について研究しています。広い地域の植生が対象になるので、人工衛星のデータを使います。
具体的には地球観測衛星のデータを使います。今の地球観測衛星は、どれも国家規模の用意周到な計画で運用されています。そのため、例えば、1980年代と2000年代の全球植生の違いといった広域かつ長期的な変化を知るにはいいのですが、当然のように、「私の研究のためにこの場所のこれを詳しくみたい」といったわがままな要望に対して柔軟に応えてくれることはありません。
油井: それは問題ですね。
鈴木: 地球観測衛星というものは、大型で、国家レベルの重厚壮大な計画の中で打ち上げられ運用されるものばかりなので、そういうものだと衛星軌道やセンサー設計について私個人が提案し、それが採用されるなんて考えてみたこともありませでした。
油井: 先ほど、1980年代と2000年の植生の違いという話が出ましたが、どう違うのですか?
鈴木: 今までの研究結果からは、シベリアでは植生が増えたという傾向が表れています。しかし、かなり不確かな結果であることが問題なんです。例えば、衛星に雲がかかるとその下の地上が見えない。また、雪があることにより光をたくさん反射し、データがかき消されることもあります。そのため、衛星で観測されたその増加傾向が果たして正しいのか、確信を持てないところがあります。2000年代になったら、減っているとい研究も出てきたりして確証が持てません。
油井: これもまた問題ですね。
鈴木: 不確かなことには他にもいろんな理由があります。衛星というのは経年変化でセンサーが劣化していきます。軌道もだんだん変わってきます。例えば、最初のうちは赤道の上空を午後の2時ぐらいに通っていたのが、年が経つにつれ徐々に遅い時刻になり夕方の4時ぐらいになってしまう。そうすると、当然、最初は昼の光で見ていたのが、夕方の光で見るように。それだけでも大きな違いになってきます。
油井: 可視情報が、情報としては一番ですか?
鈴木: 植物の衛星観測で可視の情報より大事なのが近赤外線です。赤外線カメラで見ると、植物が白く写りますが,あれは葉緑素の色素が近赤外線を強く反射しているからなんです。そのため、植生を衛星で観測する多くの場合で近赤外線のシグナルを拾います。
油井: 雪も影響があるんですね。
鈴木: 雪が全体の反射を大幅に上げてしまうので、緑の植物がたくさんあったとしても、衛星から観測するとそれが雪の反射でかき消されてしまうのです。
中須賀: 研究者として、この波長で見たいという要望はありますか?
鈴木: 近赤外線と目で見える可視光、そのあいだの反射の強さの差が要となります。例えば、新緑前線。日本では春から夏にかけて落葉樹の枝から新緑の葉が出てきます。そうすると可視光と比べて近赤外線が強く反射されるようになります。日本全国でその変化の様子を衛星から見れば、南から北へとだんだん緑になっていく様子が「新緑前線」として捉えられるかもしれません。常緑樹はダメですけど。それから、分析するのが難しいかもしれないですけど、もっと興味があるのが紅葉です。秋になると多くの葉が赤くなったり黄色くなったり、紅葉します。あれを精度よく捉えるのが現状では非常に難しいのです。難しい理由に森林の中でも木の一本一本、紅葉になる時期が違うことが挙げられます。同じ種類でもその時期は違います。困難だからこそ日本列島の「紅葉前線」を衛星から見定めてみたくなります。
「新緑前線」や「紅葉前線」を分析するためには、高解像度のセンサーを積んだ衛星が自分が研究したい地域と時間にやってきてもらわなくてはなりません。しかし、実際はその頻度って少ないんですね。今、この季節のタイミングでデータがあったらいいと思っても、なかなか思い通りにはなっていません。
油井: えっ! 1周ってどのくらいかかるんです?
中須賀: 例えば、衛星1機で地球全部を見ようとしたら、あるところに戻ってくるのに40日かかります。そのため、日々の変化はわからないし、タイミングを逸してしまうのです。そのため、欲しいデータ、つまり、特定の場所で、欲しい時に欲しい波長で取ったデータがなかなか見つからないのが、大きな障害になっているという気がしますね。
鈴木: 観測する波長の要望というのは色んな意味で出てきます。「紅葉前線」の検出であれば紅葉に特化した波長のバンドがあったら,それをピンポイントで使ってみたいと思います。今年の秋は暖かいから紅葉になる時期が遅れてるとか、夏が暑かったから紅葉がきれいだとか言われますよね。つまり,紅葉は毎年の天候を反映していた筈です。紅葉の状態、すなわちいつ紅葉したか,それから、どんな色になったかを調べることは、1年の天候の指標になる可能性があります。それを毎年調べていけば、気候の変化、例えば温暖化しているのか否かについて解釈することも可能になります。
新緑前線の話に戻りますが、新緑ならではの明るい緑色について検出できるよう、特別に設計されたセンサーとかにも期待したいです。植物の季節変化は天候に敏感に反応します。地球環境がどう変化しているについて知るには最適な現象の一つだと考えています。
中須賀: 40日に1回が、1日に1回になることによって変わることはありますか?
鈴木: 植物の季節変化というのは日単位で起こります。なので、毎日のように同じ場所を観測できれば、生物の季節のふるまいを正確に知る可能性を秘めています。
中須賀: そういのが、超小型衛星の特徴なんですね。大型衛星ほどの分解能はないけれど、頻繁に見える。それが活かされる世界があるのはうれしいですね。
小さな衛星が貢献できるのは、そういう分野だと思うんですね。小さな衛星だから短期間にそれほどお金をかけずたくさんの衛星を打ち上げることができる。それを生かせば、研究者の希望を反映して、特定の日の、特定の場所の、特定の波長のデータ―を取ることができる。
今の大型衛星は最初から波長が決まっていて、このデータをお使いなさいとなるんですね。そうではなく、使う人の要望を入れて衛星を作る。それをどんどん試していけば、研究のスピードも上がりますよね。そのサイクルを早くし、たくさん打ち上げることで、この地域のいつのデータが欲しいといった個別の要望にも応えられる。それが超小型衛星の社会への貢献につながるのではと。

油井: すぐにでも要望書を出したいんじゃないですか?
鈴木: まあそうなんですが、やはり問題は予算。大型に比べれば大きなお金はかからないとはいいますが、それでも大金を用意することは容易ではありません。
中須賀: 我々の衛星界は、コストは2億円以下、ミッション機器も入れて3億円ぐらいにはしたいと思っています。まだ高いですが、大きな衛星に比べれば100分の1の価格です。
そのお金を得るためには、研究者のコミュニティーを大きくして頂いて、「これは大事な研究だから」と国に働きかけていって頂きたい。コミュニティーを作ることがとても大事だと思います。同じような研究をしている人たちの声をまとめていく。それが柱になります。
ただ、我々は全く別のユーザーのことも考えています。例えば、民間の企業の利用。こんな写真を撮りたい、宣伝に使いたいなど、色んな使い方があると思うのです。大型では考えられなかったことが、超小型では可能になる。
たくさん打ちあげることによって衛星の価格は下がっていきます。下がっていけば、研究機関の方々にも、欲しいデータが提供できる。そういうサイクルを目指したいですね。
鈴木: 紅葉に特化した観測衛星「もみじ」なんていうのができたらいいですね。
中須賀: 大きな衛星だと「何や、アホみたいなこといって」と言われますが、僕の超小型衛星だと何やってもいいわけですから。1機飛ばせば色んな付帯情報が取れますから、地球温暖化についても一緒に研究できる。このサイクルが動きだしたら、ものすごく広がると思いますね。

鈴木: 一つ質問ですが、雲と雪を区別することなんて簡単にできないですか?
中須賀: 1つの波長だけじゃなくて、いくつかの波長を組み合わせてみたらどうでしょう?
いろんなものを試すプロセスをやっていけばいいのではないでしょうか。
油井: 地表との関連も大事かもしれないですね。地上から雲はないよと言っちゃえばいいんでしょ。
中須賀: 地上で情報を取る。それは大事ですね。衛星は上から見るだけじゃなくて、地上で取った情報を集めるという使い方もあります。上から見たデータと地上から上げたデータと両方を見て判断する、そんなこともできます。
鈴木: 日本を中心としてPEN(Phenological Eyes Network)というネットワークがあります。今どこで新緑が始まったかとか、紅葉になったかなどを知るために、地上ベースの定点カメラで毎日、植生を撮影しています。地上の植生を写すだけじゃなくて、もう一台、上を向いた魚眼レンズカメラが雲の状態を記録しています。それによって衛星観測では邪魔となる雲のないタイミングを知ることはできます。PENのように衛星のデータとそのグランドトゥルース(地上の真値)を組み合わせることで、本当に何が起きているのか調べようという動きも盛んになってきました。
中須賀: そんな研究のコミュニティができているんですね。
鈴木: ネットワークの地点数はそんなに多くはないですが、どんどん拡充しています。地上ベースで生物季節を記録しようという動きはさかんに行われています。
中須賀: それがあれば、雪なのか、雲なのかわかりますね。
鈴木: ですから、もし超小型衛星で特定の場所を細かく撮ることができれば、地上のカメラで雲の状態と比べることにより、良質のデータが得られると思っています。

中須賀: とにかくいろんなことを試せるように、実験の場をもっと作りたいですね。
鈴木: 実験とおっしゃいましたが、失敗は許されますか?
中須賀: もちろんですよ。
鈴木: 失敗を成果として捉えてもらえれば、こちらもチャレンジする気力が出てきますね。
中須賀: ぜひ、新しいチャレンジを研究者の方にやっていただき、我々がサポートしていく世界を作っていきましょう。 今の衛星の世界は、挑戦的なことができなくなっています。5年に1回しか作らないから、5年分を乗っけようとするからダメなんです。でも、超小型衛星なら、何回かに1回、失敗しても、次があるからとチャレンジできる。これがダメだったから次と、サイクルが短くなることが、進歩のスピードにつながると思っています。
油井: 中須賀先生、もしかして量産化につてもお考えですか?
中須賀: もちろんです。数が少ないと、信頼性を上げることは難しいし、技術が枯れていかない。当り前の技術は枯らさないとダメだと思うんです。衛星の基本部分は変えずに、ミッション系は新しいものをどんどん提案してもらって開発していく。まさに量産。量産しないと意味がないんです。
油井: 宇宙開発といえば、職人技が必要と思っていましたが、量産化ですか?
中須賀: 職人技が必要なんていうのは嘘です。加工の精度がものすごく高くないとできないことなんて、衛星にはないんです。大事なのは、衛星の標準化と「絶対死なない」システムの作り方。ソフトウエアとか全然違ったところで勝負して、衛星自体は工数を下げていく。その方向に進まないといけません。
油井: 何だか、ここでみなさんと話をしていると、宇宙を身近に感じますね。
中須賀: そう、宇宙だからといって特別じゃないんです。